ありふれた恋を。

「…え?」


弘人さんが差し出している指輪を前に、私は言葉をなくしたみたいに何も言えなかった。


ただ、嬉しくて。

ただひたすらに嬉しくて、言葉よりも先に涙が溢れてくる。



『今すぐじゃなくて良いんだ。ご両親にも改めてちゃんと挨拶しなきゃないけないし。だから今は婚約だけでも』

「よろしくお願いします。」


最後まで聞き終えるまでに答えていた。

私も同じ気持ちでいることや、今心から幸せを感じていることを早く伝えたくて。



『ずっと幸せでいよう。ずっと大切にするから。』

「うん…嬉しい。」


嬉しい気持ちが身体いっぱいに広がって涙となって溢れる。

そっと優しくその身体を引き寄せた弘人さんの腕の中で、これまでの様々なことに思いを馳せていた。


きっと私は、こんな日が来ることをずっと待ち望んでいたのだろう。


先生の生徒から弘人さんの彼女になって、そして奥さんになる。

誰にも気を遣わず、後ろめたく思うこともなく、ずっと傍に居られる。



< 262 / 264 >

この作品をシェア

pagetop