ありふれた恋を。
「…え?」
弘人さんが差し出している指輪を前に、私は言葉をなくしたみたいに何も言えなかった。
ただ、嬉しくて。
ただひたすらに嬉しくて、言葉よりも先に涙が溢れてくる。
『今すぐじゃなくて良いんだ。ご両親にも改めてちゃんと挨拶しなきゃないけないし。だから今は婚約だけでも』
「よろしくお願いします。」
最後まで聞き終えるまでに答えていた。
私も同じ気持ちでいることや、今心から幸せを感じていることを早く伝えたくて。
『ずっと幸せでいよう。ずっと大切にするから。』
「うん…嬉しい。」
嬉しい気持ちが身体いっぱいに広がって涙となって溢れる。
そっと優しくその身体を引き寄せた弘人さんの腕の中で、これまでの様々なことに思いを馳せていた。
きっと私は、こんな日が来ることをずっと待ち望んでいたのだろう。
先生の生徒から弘人さんの彼女になって、そして奥さんになる。
誰にも気を遣わず、後ろめたく思うこともなく、ずっと傍に居られる。