ありふれた恋を。

必死で先生を追いかけていたひとりの生徒だったあの頃の自分に教えてあげたい。

未来はこんなにも素晴らしいよ、と。



「でも、急にどうしたの?」


どうして、こんな何でもない日に突然プロポーズなのか。

私の問いに弘人さんは少し恥ずかしそうに笑う。



『結婚自体はずっとしたいと思ってた。だから指輪も買って、いつどうやってするか考えてたんだけど…』

「けど?」

『さっき帰り道で見たんだ。おじいさんとおばあさんが手を繋いで歩いてて、たまに立ち止まって空や木を眺めたりして。どちらかが先に行くこともなくずっと同じペースで歩いてるのがなんか良いなって。』


弘人さんが見たその光景を思い浮かべる。

長年連れ添ってもなお、手を繋いで歩ける関係を想う。



『俺と夏波もいつかあんな素敵な夫婦になれるかなって考えてたら結婚したいって気持ちが急に大きくなって、そのままスーツ買いに行って着替えた。』


もしかしてプロポーズかもなんて思う暇もなく突然で、でもその計画性のなさが意外と弘人さんらしいなと思った。



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