ありふれた恋を。

でも、少しだけ分かることがある。


お兄ちゃんが言った“メソメソ”と、先生が言った“一途”。

これはきっと、先生の前の彼女に対することだろう。


先生は前に言っていた。

一途に想われるのは悪くないって。

先生は彼女を一途に想っていたからこそ、あんな風に言ったのではないか。


そう思うと、少しだけ心が痛んだ。


お兄ちゃんは、先生からその話を聞いたのだろうか。

先生が彼女と別れた理由や、サッカーを辞めた理由を。



「ねぇねぇ、私にも分かるように話してよ。」

『あぁ~ごめんごめん。』


2人の間に入ると、お兄ちゃんが気付いたように謝る。



『弘くんさ。いっつも酔っぱらって俺に言うんだ。いつ…』

『やめろよ和哉。』


何かを言いかけたお兄ちゃんを、先生が咄嗟に止めた。


これまでの楽しげな雰囲気が一瞬にして緊張に包まれるような、今までに聞いたことがないくらい切迫した声だった。


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