ありふれた恋を。
完璧教師の過去。
『ごめん弘くん…。』
『いや、いいんだ。俺の方こそごめん。』
お兄ちゃんが言いかけた“いつ”と、今2人が謝り合った意味が私には分からない。
でも、お兄ちゃんが話そうとしたのは先生の彼女のことだということだけはなんとなく分かった。
だから、先生はそれを止めた。
あの乾いた声で。
♪♪♪~
なんとも言えない気まずい空気と沈黙。
そこに沈黙を破る軽快な音楽が流れた。
『あ、電話だ。ちょっとごめん。』
お兄ちゃんはスマホを持って部屋を出て行く。
私の前を通るとき、一瞬申し訳なさそうな顔をして。
…本当だよ。
こんな状況で2人きりにしないでよ。
「……。」
『………。』
お兄ちゃんが部屋を出て行っても先生が口を開く気配はなくて、私も変に話さない方がいいのかなと思うとますます言葉を発しづらい。
ドアの向こうから、お兄ちゃんの声が微かに聞こえてくる。
『ごめん』とか『違うんだ』とか、何やら焦っているみたいだ。
「………。」
『…………。』
結局、お兄ちゃんが戻ってくるまで部屋は静かなままだった。