ありふれた恋を。

『あぁ~疲れた。』


戻ってきたお兄ちゃんは携帯を放り投げて床に寝転がる。



「もしかして香奈さん?」

『そう。また疑ってやんの。俺が浮気したんじゃないかって。』


香奈さんはお兄ちゃんの彼女で、もう随分と長い間付き合っている。

その香奈さんは少し神経質で、いつもお兄ちゃんが浮気していないかを必要以上に確認している。



『最近忙しくてなかなか会えないからさ、余計しつこいんだよ。』

「しつこいなんて言い方しなくても。」

『でも浮気なんかするわけないのにさ。信用されてねーなぁ、俺。』


お兄ちゃんはクッションに顔を埋めてハァ…とため息をつく。



『それだけ…。』


突然、今まで黙って聞いていた先生が呟く。



『それだけ、愛されてるってことだろ。』

『まぁ、そうなんだけどさ…。てか、そこも可愛いんだけど。ははは。』


私はお兄ちゃんのノロケなんて耳に入らないくらい、先生に釘付けになっていた。


前に見たのと同じ。

この、切なくて苦しそうな表情。


『愛されてるってことだろ。』

先生の言葉を頭の中で繰り返す。


…もう我慢できないよ。

先生のことが、知りたい。



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