ありふれた恋を。
今の今までよく話していたお兄ちゃんが急に静かになったと思ったら、床に転がったままスースーと寝息をたてていた。
『本当こいつって信じらんねぇ寝落ちの仕方するよな。』
「先生。」
微笑ましそうにお兄ちゃんを見る先生を思わず呼んでしまったけれど、何から聞いて良いのか分からず慌てて頭の中を整理する。
「雑誌、持って帰ったんですか?」
『あぁ…うん。』
「私…先生が先生になる前の話、聞きたいです。」
『え?』
先生はとても分かりやすく戸惑った表情を浮かべている。
「私、先生のこと疑ってるのかもしれません。」
『疑う?』
また踏み込んではいけない線を、今から超えるのかもしれない。
それでも知りたいという気持ちを止められなかった。
「先生、サッカーを辞めた理由話してくれましたよね?」
『あぁ…うん。』
「あの話、本当ですか?何かもっと別の理由があるんじゃないですか?」
『…そっか。』
先生は小さく呟いた後にため息をついた。
『勘が鋭いねぇ、有佐は。』
「え…?」
ってことはやっぱり、あの時話してくれたことは本音ではなかったんだ。