ありふれた恋を。
『怪我をしたんだ、試合中に。それがプロのクラブからスカウトが観に来る大事な試合だった。』
さっきとはまた違う、胸の痛み。
プロになれなかった理由は、実力がなかったからじゃなくて怪我をしたのが原因だったの?
『その怪我が思ってたよりも重症でね…この状態じゃオファーは出せないって、スカウトに言われたんだ。だからプロになることもサッカーを続けることも諦めるしかなかった。』
「そんな…。」
それが先生の夢が途絶えた瞬間。
何も、言えなかった。
『でも俺には彼女がいた。夢を失ったとしても、彼女がいてくれれば大丈夫だと思った。別の道だったとしてもまた一緒に歩いていければ、それだけで。』
先生の彼女を想う気持ちがこんなにも強かったのだと知って、私はさらに言葉が出せなくなる。
きっと当時の先生にとって、彼女の存在そのものが支えだったのだろう。
『だけど…そう思ってたのは俺だけだった。』
「えっ…?」
先生の表情が、またひとつ暗くなる。
『彼女は…俺がプロにはなれないと分かった途端、俺から離れて行った。』
離れた…?