ありふれた恋を。
その言葉の意味をすぐには飲み込めなくて戸惑う。
ずっと先生を支えていた彼女が、先生が1番苦しんでいるときに…?
「どうして?」
独り言のように漏れていた私の言葉に、先生は小さく笑う。
『良かった、そう思うのが俺だけじゃなくて。』
そんなの、誰だって不思議に思う。
なのに先生は心底安堵したような表情で。
その表情が、ずっと彼女のことを1人で抱えてきたのだと実感させる。
「離れたって…どういうことですか?」
『言葉の通りだよ。』
先生はあっさりと切り捨てるように言う。
『彼女と大学で出会ったとき、俺はそこそこ将来を嘱望された選手だった。有佐が持って来た雑誌にも載ってたけど、大学選抜にも選ばれたりしてな。』
雑誌を見ないように閉じた先生の姿を思い出す。
『周りからも当然プロになるだろうと思われてたし、何度も言ってるけど俺もそのつもりだった。』
滑らかに話すいつもの先生とは違って話がまとまりきっていないのは、先生の中でまだ消化できていないからなのかな。
『結果から言うと、彼女はそこが良かったんだ。』
先生がサッカー選手を目指していたから、先生を好きになったってこと?