ありふれた恋を。
『正直に言っていいんだぞ。』
「思ってません!」
思わず大声を出してしまった。
先生が驚いてお兄ちゃんを見たけれど、変わらず寝息を立てていたことにホッとする。
『バカな男だよ俺は…。全く気付かなかったんだから。』
しばしの沈黙の後、先生はため息と共に吐き捨てる。
「彼女さん、そんな素振りは見せなかったんですよね?」
きっと先生の前では、強かな感情は隠して“優しくて良い彼女”だったに違いない。
『そうだね…。確かにそんな素振りは見せなかったよ。彼女は優しかったし、いつも俺の味方でいてくれた。』
やっぱり…。
思えば思うほど残酷な話だった。
『あの頃の俺には、ちょっと有名だからって近寄ってくる女が沢山いた。でも彼女はそんなんじゃなくて、ただ純粋に1人の男として俺を見てくれてるって思ってた。…って、それも勘違いだったわけだけど。』
先生はきっと、彼女を1人の女性として見ていたんだろう。
読者モデルをしてるからとかじゃなくて、ただ純粋に、1人の女性として。
なのに、彼女は……。
『やっぱりバカな男だよ、俺は。』
「そんなこと…」
『だって、その彼女が今でも忘れられないんだからさ。』
今でも、忘れられない…。