ありふれた恋を。
「ありがとう。」
好きです、と言ってまっすぐに俺を見つめる有佐から視線を逸らす。
気持ちが揺らがなかったと言えば嘘になる。
だけど今俺に言えることはそれだけだ。
「嬉しいよ、そんな風に言ってもらえて。」
目を逸らしていても、有佐の身体から力が抜けて行くのが分かる。
きっととても緊張しながら言ってくれたんだろう。
だけどその気持ちが通じないことを悟ったかのように肩を落とす。
「俺は有佐の先生で、有佐は俺の生徒だ。
好きでいてくれることは嬉しいよ。でもな、好きでいてくれても幸せにしてあげることはできない。」
できるだけ優しく、だけどきっぱりと。
有佐の想いを断ち切らなければいけない。
『だから、ごめん。有佐の気持ちに応えることはできない。』
どんなに良い子でも。
たとえ心を揺さぶられたとしても。
俺と彼女が特別な関係になることは決して許されない。
何があっても、その線だけは絶対に超えてはいけない。