ありふれた恋を。
『そう、ですよね。』
有佐は自分に言い聞かせるようにつぶやいた後、無理に作ったような笑顔を浮かべる。
『自分でも何言ってるんだろうって思いました。ごめんなさい変なこと言って…冗談です。忘れてください。』
冗談じゃないことも、本気で言ってくれたことも、見ていれば分かる。
それでも俺に気まずい想いをさせないように、精一杯明るく取り繕っている。
『でも、真剣に答えてくれてありがとうございました。』
また少し、心が揺れる。
掴まれてしまわないように、必死で感情を食い止める。
『私、そろそろ帰りますね。』
小さくお辞儀をして部屋を出て行こうとする彼女に、何か言わなければと思う。
俺のためになら泣いても良いと言ってくれた彼女に、せめてもの感謝を伝えなければと思う。
「有佐。何かあったら、またいつでもおいで。」
なのにどうして、そんなことを言ってしまったのだろう。
今きっぱりと断ったはずの有佐に、また期待を抱かせてしまうようなことを。
だけど有佐は嬉しそうに笑って、静かに部屋を出ていった。