ありふれた恋を。
『夏波はさ…大人しいしあまり主張しないタイプだけど、結構人をちゃんと見てるところがあるんだ。』
「あぁ、そうだな。」
『あと、涙もろい。』
ぐ、と胸を掴まれる感覚。
先程見た泣き顔を思い出す。
『子供の頃からよく泣くやつでさ。それも自分のことじゃなくて、人のことで。俺が大事な試合でPK外したときも、お兄ちゃんは悪くないよって大泣きして。』
その姿が、簡単に想像できる。
人の為に泣ける。
有佐はそういう子だ。
『夏波は試合見てもないんだぜ。なのに話聞いただけで泣いちゃってさ。あのときは参ったよ。』
そして妹のことを話す和哉の顔は、今までに見たことのないような慈しみに満ちている。
「好きなんだな、有佐のこと。」
『シスコンだな。』
はは、っと笑ったその顔に心がざわつく。
俺はそんな大事な妹を、有佐を、傷付けてしまった。
気持ちを受け取らないことが正しいと分かっていても、傷付けてしまったことに変わりはない。
もう、この部屋で3人で笑い合うことは2度とできないような気がした。