ありふれた恋を。
『弘くん、夏波のことよろしくね。』
「え?」
大真面目な顔で言う和哉と、まっすぐ目を合わせることができない。
『シスコンの兄として心配してるわけさ。学校で変な男に引っかかってねぇかなーとか。』
和哉から見て俺は、変な男に入るだろうか。
…って、そんなこと考えても意味ないんだけど。
「大丈夫だよ、有佐なら。」
今の俺にできることは、教師として、兄の友人として有佐を見守ることだけだ。
そして俺は、いい加減瑠未のことを忘れたい。
有佐の言う通り、俺はきっと今も瑠未に縛られている。
瑠未がいなくても生活はできるし、幸せにだってなれる。
だからもう2度と、瑠未のことを思い出さないように。
俺は俺で、ここで生きていけるように。
過去は今日に置いて行こう。
そう思わせてくれた有佐に「ありがとう」と伝えるチャンスはもう来ないかもしれないけれど。
俺にとって有佐は、とても特別な存在になっていた。