ありふれた恋を。

『弘くん、夏波のことよろしくね。』

「え?」


大真面目な顔で言う和哉と、まっすぐ目を合わせることができない。



『シスコンの兄として心配してるわけさ。学校で変な男に引っかかってねぇかなーとか。』


和哉から見て俺は、変な男に入るだろうか。

…って、そんなこと考えても意味ないんだけど。



「大丈夫だよ、有佐なら。」


今の俺にできることは、教師として、兄の友人として有佐を見守ることだけだ。


そして俺は、いい加減瑠未のことを忘れたい。

有佐の言う通り、俺はきっと今も瑠未に縛られている。


瑠未がいなくても生活はできるし、幸せにだってなれる。

だからもう2度と、瑠未のことを思い出さないように。

俺は俺で、ここで生きていけるように。


過去は今日に置いて行こう。


そう思わせてくれた有佐に「ありがとう」と伝えるチャンスはもう来ないかもしれないけれど。

俺にとって有佐は、とても特別な存在になっていた。


< 82 / 264 >

この作品をシェア

pagetop