ありふれた恋を。

大きく手を振る倉島の後ろからさり気なく外を見やると有佐が控えめに手を振り返している。

その手が一瞬止まったのは、俺に気付いたからか。

慌てて身体を引っ込めると、そのまま教室を出た。



『先生待ってー。』


なんとなくこれ以上絡まれたくない気持ちもあったのだが、倉島は後から追って来る。



『先生もうお弁当食べた?』

「これから食べるよ。」


質問しながら首を傾げて顔を見上げるのも、跳ねるような話し方も、全部確信犯かと思う程完成されている。



『私もこれから食べるから一緒に食べよ?』

「ごめん、まだ仕事あるから職員室で食べるわ。」

『え〜。』


分かりやすく落胆を表す姿を見ても、申し訳なさは湧いてこない。



「有佐と食べるんじゃないのか?」

『なつなつ?』


なつなつ、とは有佐のあだ名らしい。



「さっき手振ってただろ。」

『あぁ、先生からなつなつ見えてたんだ。』


なんとなく声のトーンが1つ下がったような気がして心が冷える。


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