ありふれた恋を。
『なつなつって去年先生のクラスだったよね?』
「そうだけど。」
歩くペースを早めても、軽くあしらおうとしても、倉島は何も察していないかのように付いてくる。
『どんな子?』
また跳ねるような話し方に戻っている。
だけどその一言の中には、探るような色が混じっている。
「どんなって、真面目で大人しい普通の生徒だよ。」
『普通。』
今度は何の感情も読み取れない口調にペースを乱される。
一体何が聞きたいのか。
『結構人気なんだよねー、なつなつって。』
「へぇ。」
興味がない、という風な呟きは通用しただろうか。
『可愛いなーとか、彼氏いんのかなーとか言ってるのよく聞くもん。あんま目立ってなくてもさ、結局ああいう普通の子がモテるんだよね。』
言っていることは上から目線だけれど、意外にもその言い方にトゲはない。
素直にそう思っている、そんな納得を感じさせる。
けれどその話をなぜ俺にしているのか、その真意までは分からない。