ありふれた恋を。

『いや、大したことじゃないんだけど…』

「え?」

『飯島休みみたいだし、一緒に弁当食べるかなーとか。』


思いもしなかった言葉に、また言葉に詰まる。



『なんだよ、黙るなよ。』

「ごめん…予想外すぎて。」


同じクラスだし、先生が載っていた雑誌を貰って以来少し話すようにはなったけれど、まさかこんな風に声をかけられる日が来るとは思ってもいなかった。

伊吹くんは学年だけじゃなく学校中の誰もが知るサッカー部のエースだけど、特定のグループや同級生と一緒にいるイメージがない。

誰とでも平等に、分け隔てなく接することができる人だ。



『誰かと本当に約束してるなら全然いいけど。』

「ううん、してない。一緒に食べよう。」


彩ちゃんに納得してもらうためについた嘘で、今日は1人で食べようと思っていた。

まさか伊吹くんと一緒に食べることになるとは思ってもいなかったけれど、助けてもらったこともあって断りづらい。



『良かった。』


だけど伊吹くんが満面の笑みで言ってくれて、断らなくて良かったと思えた。


< 91 / 264 >

この作品をシェア

pagetop