ありふれた恋を。

できるだけ生徒がいない中庭を選んだはずなのに、先輩か後輩かも分からない何人かの女子生徒の視線が痛い。

私みたいな地味な生徒が、なぜ伊吹くんと一緒に居るのか分からないのだろう。

でもその気持ちはよく分かる。

私が1番分かっていない。



『有佐ってさ、いつも飯島と居るよな。』

「うん、去年も同じクラスだったから。」


2人きりで過ごすのも、こんなに長く話すのも初めてなのに、不思議と緊張も気づまりも感じない。

それが伊吹くんの人柄なのだろうか。

なんだかとても心地良い時間だった。



『だから仲良いんだな。なんか入る隙見当たんなくてさ。』

「え?」


入る隙。

すぐにその言葉の意味を飲み込めずに戸惑う。



『回りくどいの嫌いだからハッキリ言うけどさ。有佐ともっと話したいなってずっと思ってたんだ。』


回りくどいのが嫌いという前置きを差し引いても、あまりにまっすぐな言葉に一瞬思考が停止する。


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