ありふれた恋を。
『いつも飯島といるからなかなか声かけられなかったけど、今日飯島が休みだって知ったときチャンスかもって思った。』
「そう、だったんだ。」
こんなとき、気の利いたことを何も返せない自分が嫌になる。
私と話したいと思ってくれて、話すタイミングを伺ってくれていて、今日こうして声をかけてくれた。
そのことが信じられなくて、それをこんなにも嬉しいと思うことにも驚いていた。
『有佐ってさ、飯島と帰る方向一緒だっけ?』
「ううん、違うよ。」
『じゃあさ…今日から一緒に帰らねぇ?」
伊吹くんは、一体何度言葉を失わせるのだろう。
急に男っぽくなった口調も、やっぱりまっすぐすぎる言葉も、全部が避ける隙もなく心に刺さる。
「うん…いいけど。」
良いんだけど、そんなことしたら今度は本当に勘違いされてしまいそうで。
それが伊吹くんにとって迷惑になるんじゃないかと思うと不安で。
それでも、きっと勇気を出して言ってくれたであろう言葉を受け止めないという選択肢はなかった。