ありふれた恋を。
『部活終わるまで待ってもらう日もあるかもしれないけど、良い?』
「うん、大丈夫。」
『やった。』
誰だって一瞬で心を掴まれてしまいそうな笑顔に思わず見惚れる。
ふわふわとした短髪はほのかに茶色くて、くりくりとした目は笑うとくしゃっと細くなる。
こんなに近くにいるから分かる伊吹くんの素顔を、もっと知っていきたいと思った。
『じゃあ、放課後。今日は早く終わると思うから好きなとこで待ってて。』
お弁当を食べ終えると、伊吹くんはそう言って先に戻って行った。
手の中には、今連絡先を交換したばかりのスマホ。
部活が終わったら連絡してくれるという。
突然縮まった距離が私を戸惑わせるけど、伊吹くんの隣にいた自分はとても自然体だったと思う。
1人分重くなったスマホを握り締め、私も教室へ戻る。
伊吹くんとの穏やかな日々が始まった日だった。
一緒に帰り、沢山話をする。
誰かと過ごす日々はこんなにも楽しくて、伊吹くんと普通の友達になれたことが嬉しくて。
先生のことを好きなままだったら、こんな日々も存在しなかっただろう。