ちくわ部

少し語気を荒げた私に驚いたのか、真崎先輩の肩が跳ねる。

一方ジン先輩は余裕の微笑を崩さぬままに、真崎先輩の肩を解放するとちっちっと指を振った。

それから、子供に言い聞かせるようなわざとらしく抑揚を付けた声を私に向けてくる。


「あのねーねぎ子、甘い甘い。きっちーの手にかかればどんな女も丸裸だよー? プライバシーとか無いよー?」


ずーむいーん、とか言いながら両手の親指と人差し指を立てて四角を作り、片目を閉じる……というカメラの仕草。

その架空のレンズの対象は私。

って、それじゃあ撮ってるのジン先輩になっちゃうでしょうに……


「だから俺を悪人にするのはやめろって! そもそも俺は関与してないし写メ撮ったのだってお前だろ……」


本当にジン先輩だった。

菊池先輩もあらぬ疑いが降りかかりそうな表現をされて、可哀想なことだ。


あんまり知りたくないなあと思いつつも、私の口は質問を放つ。


「いつ撮ったんですか……?」


「んー、最初に部室来た時、陽が沈むより前。帰り際じゃ暗くてまともに撮れないしー」


ところが先輩は全く悪びれた様子も無く、少し首を傾げながら本当のことを吐いた。

堂々と盗撮宣言とはこれいかに……しかし、あっけらかんとしすぎていて怒る気にもなれない。

憎めない、とかそういうレベル以前の問題である。

相手にするだけアホらしいというか、なんというか。

悪気も滲まないその態度に、攻める気すら薄れるのである。
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