ちくわ部
 
その紹介を受けて、長身の彼――塩田君はここにきてようやく口を開く。


「……四組の、塩田です」


……暗い。どうしようこの人。暗い。

声のトーンもテンションも低い。

どう考えても入部後幽霊部員化するタイプだろうこれは。


そして後ろから何か音がすると思ったら、ジン先輩がうちわをテーブルにべしべし叩きつけていた。

よほど喋りたいらしい。

それにしても、菊池先輩の言い付けを一応は守っているあたり、よくわからない人である。

しかし当然のごとく、うちわによる無言の抗議は無視された。


「……と、いうわけだから、みんなよろしくね。んで今日も美琴が居ないんだけど……」


「美琴ちゃんもタイミング悪いっすよね。麻衣ちゃんにも会いたがってたし塩田にも会いたがるだろーに、いっつも都合悪いんだから」


少し語尾を濁すような菊池先輩に、からりとした真崎先輩が続く。

そこで挙がったのは初めて聞く名前だった。


「美琴、って人が、こないだ言ってたもう一人の入部してる一年生ですか?」


私が尋ねると、菊池先輩は頷く。

ちらと奈津さんを見て、それからまた私と目を合わせてくれた。


「そうそう。ジンと奈津と俺と美琴の四人で幼馴染なんだ」


「……うん。わたしとお兄ちゃんとみこちゃんは、物ごころついた時からご近所さんで……菊池さんは、菊池さんが小学六年生のときに近所に引っ越してきたの」


先輩の説明に、奈津さんが補足を加える。

先日の微妙な言い方の理由がなんとなくわかった。

つまり、菊池先輩は幼馴染のグループに途中から入ってきたようなものなのだろう。
 
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