ちくわ部
一方ジン先輩はその間うちわで菊池先輩の顔を思いっきり扇いでいた。
菊池先輩の髪が風に弄ばれて色々大変なことになっているが、菊池先輩自身はスルーしている。
構うと逆効果になるからだろうとはいえ、笑顔で無視とはさすがである。
これが大人のスルースキル、なんだろうか。
にしても今日の話のメインのはずなのに、塩田君は全くと言っていいほど存在感が無い。
本人も自分から話そうという意思が無いようだが、ちょっと気になったことを聞いてみる事にした。
「なんだか塩田君って、スポーツとかやってそうな感じだけど……部活はやるつもりないんだ?」
この学校の部活は殆どが活発らしく、部活動と言えばと聞かれてすぐ名前が挙がるようなメジャーな部活はどれも優秀な成績をおさめている。
部活へのサポートも整っているというし、本気で部活に打ち込みたいのであれば望ましい環境の筈だ。
当然その気がないからここにいるのだろうけれど、真面目そうで体育会系っぽい塩田君がいるのがなんとなく不思議でひっかかる。
尋ねられると思っていなかったのか、こちらを見てから少しだけ硬直。
それから控えめな声量でこう答えた。
「中学の時は、野球をやってた……でも、ここの野球部は活発すぎる。今はバイトを頑張りたいんだ」
話を振られればまともに喋るらしい。
……奈津さんと若干キャラが被っている気がしなくもない。
そして思った通りの元・野球部。
きっと部室棟の階段も楽勝なのだろう。