ちくわ部
 
「バイトかー。家が大変とか?」


真崎先輩にそう聞かれて、なぜかもろにうろたえだした。

ジン先輩は手が疲れたらしく、うちわをテーブルに放り出しておとなしく話を聞いている。

黙ろうと思えばちゃんと黙れるんじゃないか、この人。ふてくされてるだけなのかもしれないが。


「あ、いやっ、別に……そういう、訳では」


「なんで焦ってんの?」


「……なんでもないです」


どうやら言いづらい理由でもあるらしい。

無表情だと思っていたが、意外と感情が表に出るタイプのようである。

ただ感情が動きにくいというだけで、いざ動けば見た目でモロバレなようだ。

今も露骨にうろたえていたし、誤魔化すのだって下手くそとしか言いようがない。

しかし本人が隠すつもりであるなら、そう突っ込むものでもないだろう。


……塩田君って、案外面白い人なのかも。

接するうちにもっと新しい面が見えてきそうだ。


「そういえば陣野さんも家の都合がー、とか言ってたよね。何かあるの? もし良かったら教えて」


次にその矛先は私に。

菊池先輩の柔らかい問いに、どう答えようか少しだけ迷ったが、正直に話すことにした。


「あぁ、私の家はちょっと……親が家空けてる事が多くて。半分は弟と二人暮らしみたいなものなんです。その間の家事当番とかそのへんの兼ね合いで、早く帰りたいときがあるんですよ」


「なるほどー。みんなやっぱり色々事情があるよね」

 
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