ちくわ部
そしてこの真崎先輩、言っていることの悲痛さの割にはノリが軽い。
実際はそこまで気にしていないのかもしれない。
どうも空振りばかりしているし、わざとなのだろうか?
もし諦めているのだとしたらちょっと切ない。
しかしそんな真崎先輩のことはスルーし、ジン先輩は塩田君に話を振った。
ちなみにこの発言の間に、真崎先輩のほうを見ることもなくその手首を掴みうちわをもぎ取っている。
エスパーか謎の気でも操っているのか。
「というわけでしーのん気を付けてねー。こいつホモだから」
「はい?」
どうやらジン先輩の中で塩田君は『しーのん』に決まったらしい。
しかし当の本人はきょとんとしている。
当然だ。急に『しーのん』とか呼ばれても分かるわけがない。
「しーのん!」
そう言うと、ジン先輩はびしりと塩田君を指差した。
君の事だよ、と言いたいらしい。
それで分かってくれる人も全体の二割程度じゃなかろうか。
ちなみに基準は私の主観である。
塩田君は相変わらず目をぱちくりさせて固まっているので、教えてあげる事にしよう。
「えと……ジン先輩はあだ名を付けるのが好きなんだってさ。だから、しーのんっていうのは塩田君に付けたあだ名なんだと思う」
「あだ名……」
どうやら嫌だったらしい。
塩田君はほんの一瞬の硬直のあと、これまたほんの少しの変化であるがしょんぼりと肩を落としてしまった。