ちくわ部
確かに、この塩田君。
そうあだ名をつけたりつけられたりするタイプには見えない。
どちらかというと硬派な、誰でも苗字呼び捨てってイメージだ。
そんな彼にとってきっとジン先輩のあだ名はそれなりの破壊力を持って突き刺さったにちがいない。
……でも安心して。私なんてねぎ子だから。
「……俺はホモじゃねーよ! 女の子大好きだよ! 健全な男子だよ!」
と、うちわを取られて呆気にとられていた真崎先輩が復活する。
力いっぱい女好きを強調しているがそれはそれでよろしくない気がする。
もちろん男好きをきっぱり公言されるよりはましであるが。
どうもこの人は、ちゃらついた雰囲気があるものの『あるだけ』で、実際はそんなに女ウケはよろしくないらしい。
言葉の端々に漂う必死感がそれを物語っていた。
そのせいでモテないんじゃないですかと思ったが、それは口に出さないでおく。
この話題は続けるだけ泥沼のようだ。
塩田君もかわいそうだし、ちょっと別の話を挟んでみよう。
「それにしてもこの部活って、みんなあだ名で呼び合ってるんですね。菊池先輩、真崎先輩の事『ハル』って呼んでましたし……慣れるまでちょっと時間かかりそうです」
あだ名の件に関してはジン先輩が一番の問題だと思う。
私に付けたあだ名といい、どうも個性的というか、『ジン先輩しか使わない』気がするのだ。
そんなあだ名をそうあちこちに付けられては混乱する。