ちくわ部
奈津さんもさすがにこの光景には和めないようで、おろおろしていた。
……自分の兄のことくらい頑張って止めてほしい。
一方塩田君は、存外軽傷だったらしく、軽く額を押さえてはいたもののわりと平然とした顔をしていた。
それよりも目の前の光景のショックが強いようで、平然としているというよりは現実から置いていかれている顔と言った方が正しいのかもしれない。
「結構いい音してたけど……大丈夫?」
「あ、ああ……うん。大丈夫、ありがとう」
私の言葉で我に返ったらしい。
それでもどうやらまだ混乱しているらしく、こちらに合わせてもくれない目線はふらふらと彷徨っていて落ち付きがなかった。
そこに、いつのまにか席を立っていた奈津さんが駆け寄ってきて、うろたえた様子で塩田君にタオル地のハンカチを差し出す。
たった今流しで濡らしてきたようだった。
「ご、ごめんなさい、お兄ちゃんが……大丈夫……?」
「いやっ、大丈夫……そこまでしなくても」
「ほんとに大丈夫? 痛くない……?」
お互いうろたえまくっている。
奈津さんの過剰な対応だけでなく、潤んだ瞳で上目遣いされているのも塩田君的に大ダメージなのかもしれない。
……耐性なさそうだし。
それになんとなく、私が居るのはお邪魔な気がしてきた。
時間的に帰っても大丈夫だしこっそりいなくなるべきかもしれない。
ていうか今私がここにいる理由ってなんなのかわからなくなってきた。