ちくわ部
「あ……俺、降りるのここなんで」
「そかー。じゃあまたなー」
そのときちょうど着いた駅で、塩田君は降りていった。
最後まで言葉少なに、軽く頭を下げて。
真崎先輩は、さりげなく『また』という言葉を使ってくれた。
私の言いたかったことを、分かってくれていたんだ。
「先輩……さっき、ありがとうございました」
「ん? そんなお礼言われるほどのことでもないって」
からからと笑う先輩に、なんだか申し訳なかった。
「……私、余計な事しちゃったんでしょうか」
「塩田の奴も無口っぽいしなぁ……麻衣ちゃんが女の子だから緊張してるだけじゃない?」
軽い口調でそう言って、次に腕を組みながら続ける。
「麻衣ちゃんが悪いわけじゃないと思うし、気にしない方がいいって。……てか俺も降りるの次なんだよね。つっても乗り換えだけど」
「あ、もう着いちゃいますね……」
アナウンスは、間もなく次の駅に着く事を告げていた。
電車は徐々に減速し、レールを蹴る音の間隔が広くなっていく。
窓の向こうに広がっていた夕焼けを遮る様に駅の光景が飛び込んできた。
「麻衣ちゃんが周りを気にしてくれてることはよく分かるよ。お礼を言うのは俺たちのほうかも」
「せっかく会ったんだから、仲良くできたらなって。……綺麗事でしょうか」
「あっはは……考え方、マジでジンにそっくり。……んじゃまた今度。もう暗いし帰り気を付けて」
電車は完全に停車して、ドアが開く。
またね、と手を振る真崎先輩は、構内に流れたメロディが終わるより先に、人の流れに消えていった。