ちくわ部
それに、普段と少し語気が違う。いつもの、あの間延びしたような喋り方ではない。
本来ならそれが普通のはずなのだが、普段へらへら喋る人にこうもはっきりきっぱりと話されるとそれがなんだか怖かった。
別にジン先輩が信用ならないから渡せないとかそういうのではないんだけど……
しかし顧問の先生とはいずれ会う事になるだろう。
それならば早いほうがいいし、一人で会うよりは、ジン先輩が一緒に居てくれた方が気が楽だ。
「別に先輩に任せるのが嫌なんじゃないですよ。でも、先輩と一緒に行きます。顧問の先生の事も覚えておいた方がいいでしょうから、そういう意味でです」
そこまで言うと、ジン先輩の張り詰めた空気がふわりと緩む。
もはやすっかり見慣れた意地悪な顔をして、私をかき回そうとするかのごとく質問を投げかけてくる。
「ふーん? 顧問なんて、部長副部長ぐらいしか普段会う機会はないよー? ほんとにそんな理由?」
「……それでも、一応は。『お世話に』なるわけですし」
サボり幇助の、だが。
ジン先輩はくつくつとおかしそうに笑うと、ちらと壁にかけられた時計を見上げた。
「物好きだねぇ? んでー、このまま今日は誰も来ないだろうし……あと十五分くらいしたら行こっか」
口調も、雰囲気も、いつもの先輩に戻りきっていた。そんな些細なことなのに、なぜだか安心している自分がいる。
さっきの先輩は、なんだか……まるで空気に棘を孕んでいるようだった。