ちくわ部
「……すいません。あんまり聞いちゃいけないことでしたか」
そう言いながら軽く頭を下げると、先輩は慈しむような声でこう返す。
「気になるだろうしね。俺こそ変な言い方して逆に心配させてごめんね」
……昨日真崎先輩をあれだけ弄り倒していた人と同じとは思えない。
申し訳なさそうに、もしくは困ったように笑うジン先輩は、また少しだけ飄々とした空気を取り戻すと肩を竦めた。
「……下手に誤魔化すと余計突っ込まれそうで、俺どこまで話していいのかわかんないけど。ねぎ子なら、いいかな……」
「ねぎ子ってありえんわああぁぁーっ!」
突如発せられた大声とドアを勢いよく開け放つ音に、思わず振り返る。
力一杯ドアを押しのけ部室の入り口付近に立っていたのは、鬼のような形相でジン先輩を睨みつける少女だった。
少し外側に跳ねたショートヘアーで、前髪はヘアピンで留めている。
リボンタイの色は……緑。私と同じ、一年生。
「お前ね……もう少し声量ってもんを考えて叫んだらどうなの? ってか叫ばないのー」
呆れたような声で先輩が咎めると、少女は鼻を鳴らして腕を組む。
少しきつい目元をさらにきつくさせて、ジン先輩をぎろりと目線で突き刺した。
「だ、だってありえない……ねぎ子って! 酷いよ……女の子に対してそのあだ名はもはやイジメ!」
確かに酷いと思う。よくぞ言ってくれた。