Nightmare
「あんなに綺麗な蝶、見たことない。欲しくなる気持ちもわかるな」
「そりゃあ夢の中だしね。それに俺もあの蝶を見たのは今が初めてだよ。でも、『ここにある』ってことは分かってたから」
バクは相変わらずよく分からないことを言う。
それからバクは黙って左手を伸ばすと、操られたかのように虹色の蝶はそこにとまった。
「綺麗なのも当然だよ。これは邪念のない、本人ですら自覚がない心の深く深く……綺麗な心の結晶だから」
「……心?」
「そう、平たく言えば君の核のようなものかな」
にっこりとあたしに笑いかけながら、バクは言う。
違う。
なにかが、違う。
顔は笑っているのに、なんだか冷たい。
「そんな、あたしはこっちにいるじゃない」
「それは君の『表面』だよ。君だってこの塔を無意識で目指してたでしょ? 表面と核は、無意識で惹かれあうんだ」
「核、って。でも、それ……食べるんでしょ?」
「そうだね。そしたら、壊れちゃうよね」
バクはまた、くつくつと笑った。
ずっとずっと、笑ってる。