Nightmare
「それなら話が早い」


バクはすっと右手を上げた。

そこにまた操られるようにして蝶がとまる。


「長い間一人で旅してもう疲れたんだ。そろそろ解放して、バトンを受け取ってくれないかな」


「やだ」


あたしは即答していた。

黙ったままのバクの端整な顔が僅かに歪む。


「あたしは騙されないよ」


「だけど既に君の核は俺の手の中にある」


「そうだね。それでも食べないのは、どうして? あたしにわざわざ何度も確認をとるのは、どうして?」


やろうと思えば、あのお姉さんみたいにあたしを騙して食べちゃえばよかったんだ。

――階段を登っておいで、俺はここにいるから。

って言えばよかった。


バクは、本当は優しいんじゃないの?

自分がそんな理不尽に騙されて、嫌だったから。

あたしにそんなことをしたくないんじゃないの?


だからあたしは、バクの言葉そのままに騙されない。
 
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