Nightmare
「……っていうか、あたしバクのことなんっも知らないんだけど。結局名前なんていうの?」


「……名前なんか忘れたよ。どうせ俺達しかいないんだから、お互いが判別できる名前さえ付いてればどうだっていいでしょ」


尋ねると、バクの顔に浮かんでいた僅かな笑みはすうっと消えて、いつもの仏頂面に戻ってしまう。


――バクは、自分のことを語りたがらない。

さっきの血液型みたいに、尋ねればそれなりに教えてくれるときもある。


訳あって一留した高校3年生の19歳であること。

春生まれであること。

暑いところが苦手なこと。

教えるつもりがないだけかもしれないけど、趣味は特にないらしい。

それから、好きな食べ物は特になしで、蟹は嫌いなんだとか。

夢の核が蟹の形をしていたとき、嫌そうな顔をしてあたしに譲ってくれたことがある。


そういった大雑把なプロフィールだけは、ぽつぽつと語られた。

ただ、名前だけは何度尋ねても教えてくれなかった。

忘れたなんて、そんなことあるわけないのに。


「あたしは名前ちゃんと教えたのにぃ」


「あんまり呼ぶ事ないから、知る意味も薄かったけどね。知らないことを教えるっていうのは不可能だよ」


あくまで忘れたのだと言い張るつもりらしい。
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