Nightmare
「へえ、じゃあ本当は23歳?」


「関係ないよ。ここでは」


貘になると『時が止まる』。

外である現実では確実に時が巡っていることは、扉の増減でわかる。

だけど、あたしたちは『止まって』いる。


それを思い知らされることが、バクは嫌いだった。

今も嫌そうな顔をしてあたしを見ている。


「……ね、あのさあ。こんなこと言って、嫌な気分になったらごめんねって感じなんだけど」


前々から、ちらついていた推測。

バクの性格からして、もしかしてこうなんじゃないかって思っていたこと。


「バクは、自分が『貘』から抜け出す事を諦めてるから、自分は『バク』だって『思おうとしてる』……の?」


バクはあたしをじいっと見つめたまま、暫く黙っていた。

さっきとは違う想いが乗せられた金色の瞳に、少しだけ背筋がぞわりとする。


「……どうして、そんなことを言うの? 『貘』の連鎖はもうやめようってことに決めたでしょ。俺たちは『貘』から戻れない。『戻らない』。そうなったっていうのに」


露骨に嫌悪感を露わにしたバクが答える。



『貘』は、人から人へと受け継がれてきた。


バクは長身のお姉さんに騙されて。

あたしは、騙そうとして騙しきれなかったバクに『もう一つの可能性』を提示しようとして失敗して。


受け継がれる貘は原則として一人から一人へ、のはずだった。

だけど、あたしがあまりにもイレギュラーな方法を取ったから、今現在貘はあたしとバクの二人っていうことになっている。
 
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