Nightmare
しかしバクはちょっとだけ、本当にちょっとだけ申し訳なさそうな顔をした……と思う。

ただでさえ表情の変化に乏しいから、僅かな僅かな変化だった。


「……いや、俺だって意地張ってたようなものかもしれないから。おあいこだと思う」


――珍しい。

バクがちょっと素直っていうか、しおらしい。

最初に会った時、あたしが貘になるより少し前くらいのとき以来だ。


ところがバクはみるみるうちに眉根を寄せた。


「……あのさぁ、なんでそんな思いっきり驚いた顔で絶句するわけ」


「いや、バクが素直で怖いから」


ありえないもんこんなの。

あたしが貘になって、たぶん半年は経ってるけど……

その間のなかで、バクが普通に優しかったり、おとなしかったり、素直に謝ったりなんてしたためしはないと思う。


「っていうか意地張ってたって何?」


「……嫌だね。教えない」


「むー。教える気がないなら気になること口走らないでよ」


結局拗ねられてしまった。

バクは、もうこの世界にどうせ俺達しかいないんだから~みたいな言いまわしをしょっちゅうする割には、あたしのことを信じてくれていないように思う。

もっと色々お互いぶちまけたほうが、楽かもしれないのに。

だからあたしからも、そんなにバクには寄っかかれない。

寄っかかったところで、快く受け止めてくれるかわからないから。


だけどあたしとしては、もしバクが寄っかかってきたなら受け止めてあげたいと思っている。

なんだか、寂しい人だなって気がするから。
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