心の中にはいつもキミがいた
長い廊下に2人きり。
小さな声でもよく響く。
俺の髪から水が落ちる。
「好きじゃないの?あの子のこと」
キミは、またタオルで顔をふきながら、視線を外した。
「全然。話したこともないし、知らないし」
「冷たいんだね。かわいそうに」
冷たい?
そう思われるのと、誤解されるのではどちらが良いんだろうかと考えているうちに、キミは背を向けた。
「宮元っ!!」
俺はとっさに呼びとめてしまった。
どこにも行って欲しくなかった。
もっと話していたかった。
キミをもっと見ていたかった。
「何?」
振り向いたキミに。
俺は。
「明日もこの時間に休憩してるから2組の教室に来てくれない?」
積極的過ぎるだろう。
何を誘ってるんだ、俺は。
キョトンとするキミに。
俺は、
「宮元のおばさんに渡したいものがあるって。うちのお母さんが」
と嘘をついた。
嘘ってバレバレだろうと思ったのに、キミはこう言った。
「あ、もしかしてらっきょうくれるのかな?毎年おばさんにもらってるもんね」
そうなんだ。
知らなかった。