ラフ
長い長いキスの途中で、携帯が鳴り出した。
深く沈んでいた意識が、一気に戻ってきた。

泉の携帯が鳴ってる。

それに気づいた泉は、面倒くさそうに電話に出た。そんな泉をみながら、奈緒は必死で心臓のドキドキを抑えようと深呼吸をしていた。


だめだ、あいつは。ホントにだめ。
なんか、癖になりそう。

自分の気持ちにさらに何言ってんだ!とつっこみ、悶えていた。

「はい。え?・・・・・・えー・・・・はい、はい。・・・・わかりました」

ぶすっとした表情で電話を切る泉。どうしたのかと思って聞いてみると、急にがばっと抱きついてきた。

「い!?ちょっと、どしたん」

軽いパニックになっていると、泉が深いため息をついた。

「今日、夕方からでよかったのに、マネージャーが仕事が入ったから今から来いって」

ぎゅっと腕に力がこもった。

「仕事より、今は奈緒と一緒に居たい」

なんでそんなこと、素直にさらっと言えるんだ、と思いながらも、泉をなだめる。

「しょーがないやん、仕事やろ?」

よしよし、と頭を撫でる。
すると捨て犬のような目でこっちを見てきた。

「う・・・そんな顔してもあかん。ちゃんといかな」

だめだ、この顔には弱い。
目をそらしたら、負けだ。
そう、負け。
・・・無理です。ごめんなさい。

ふっと目をそらした。

「やだー!行きたくない!」

そらしてはだめだと分かっていたのに、泉のあの目には勝てなかった。
結果、駄々っ子のように泉がごねはじめた。
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