ラフ
楽しそうな明日香の声に反して、奈緒の気分はどんどん沈んでいった。正直、今まで、一目惚れなんてありえないと思ってたふしがあるからだ。

『でもま、とりあえず。おめでとう』

「・・・アリガと」

明日香の祝福の言葉も、なぜだか素直に受け取れない。ため息が出る。
…もう何度目だろうか。

『これから大変やと思うけど、お互いがんばろうな』

明日香に言われてきょとんとした表情になる。

「なにが?」

『・・・やっぱり分かってなかったか』

「・・・?やからなに?」

ふぅ、と向こうで息をついているのが聞こえた。

『テレビ。8チャンつけてみ』

明日香に言われてチャンネルを回す。関西では結構有名な番組が流れていた。MCの芸人さんは、私でも知っている人気お笑い芸人だ。私も時々観ている。そこには・・・・ゲストとして映っている、彼氏と、友人の彼氏の姿があった。

「あ・・・・」

絶句した。言葉がなにも出なかった。この番組に出るのは、そこそこ人気も、知名度も上がらないと出られないのは知っている。

『私も、香月と付き合ってすぐはいろいろ、大変やったし。多分、そんなに深く考えずにOK出したとは思うけど。それでも。ある程度は、いろいろと覚悟しといたほうがいいと思うよ』

番組で2人にきゃあきゃあと声援が送られている。その声を聞くと、どんどん気持ちが憂鬱になってきた。

『でもさ、泉君、ホントにいいひとやからさ。奈緒も。頑張ってみたら?』

「ん・・・・考えてみる」

『大丈夫、きっと』

「ありがとう」

『いいえ。んじゃ、今から仕事やから。またね』

「うん。じゃ。ホントにありがと」

『どういたしまして』

プツっと電話を切った。
そして、TVに映った彼氏の姿を、複雑な気持ちで見ていた。



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