ラフ
リビングに戻る。奈緒がコーヒーを入れてくれた。

「はい、お疲れ様」

コーヒーを受けとって、ソファに座った。
今から、ごはんに行けなくなったといわないといけない。
そう思うと、少し憂鬱になってきた。

「あの、さ」

声をかけると、奈緒が顔をこっちに向けてきた。

「今日、晩飯行こうって約束やねんけど」

言いたくない。本当は奈緒と一緒に居たい。
なのに、別の人と飲まなあかん。
・・・なんでやねんな。

「・・・ちょっと、事務所の先輩と飲みに行かなあかんくなって。それで、その・・・」

きょとん、とした顔をする奈緒。

「ごめん!一緒にご飯食べられへんねん、今日!」

両手を合わせて頭を下げて謝る。
怒るか?怒ってる?怒るよなぁ・・・

そっと顔を上げてみると、奈緒はきょとんとした顔をしている。予想していたような顔じゃなかった。

「えっと。飲み会が入ったってこと?」

ためらいながらも頷いた。

「んー、じゃ、しょうがないよね」

「へ?」

「え?先輩に誘われたんやろ?しゃーないやん。私も、会社の飲み会とかで、急に予定が潰れたりすることもあるし」

奈緒は笑っていた。
正直びっくりした。

「怒って・・・ない?」

「んー。まったく怒ってないっていうたら嘘やけど。でも、しょうがないし。また他の日にご飯行こう?」

気づけばまた抱きしめていた。
どうしようもないくらい、好きなんだと思った。
昨日会ったばっかりなのに。
びっくりするくらい、俺は、奈緒が好きだと思った。
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