ラフ
「仕事、結構遅いんやね」

時間は10時。そもそもの集合も9時と遅めにしてもらっていたのに、1時間遅刻してしまった。

「ちょっとぎりぎりで依頼がきたもんで、遅れてごめんなさい」

せっかくの場を遅れてしまい、申し訳ないと謝ると、泉が笑って、いいよ、と答えた。

「それにしても芸人さんと話すのは初めてだわ」

というよりも、芸能人という人種と会う機会が滅多にないものだから、何を喋ったらいいか、少し悩みながら口を開いた。

「つかさ、どこで明日香は知り合ったん?」

素朴な疑問を投げかけると、笑いながら答えが返ってきた。

「本気で人違いして、声かけられたんがきっかけ」

収録で街を歩いていると、スタッフの人に似ていたため、間違えて明日香に声をかけたのがきっかけらしい。

頼んでいた飲み物が届き、4人そろったところでと、再度乾杯をする。仕事のことや、それぞれの話で大いに盛り上がった。さすが芸人。話をしていて、飽きることがなかった。

「ねぇ、あそこの席の人・・・あれって・・・」

お店で飲み食いをしだして数時間がたった頃。周りの席の人達が、奈緒たちの席のほうを見ながら、ひそひそと話しだした。

「・・・そろそろ出ようか」

時計を見ると時間は11時半をまわっていた。いい時間だし、とお会計を済ませて外に出る。4人は街中をゆっくり歩きながら、駅の方へと向かった。

「この後どうする?」

明日香に言われてうーん、とうなる奈緒。

「私はこのまんま、香月んちに行くから、奈緒も要君と一緒に遊んできたら?」

会ってまだ数時間しかたっていない人間と、二人っきりでどこへいけと?とびっくりして言葉を失っていると、明日香に続いて堺も賛成の声を上げた。

「いやいやいや、ちょっと二人とも」

焦って断ろうとすると、急に泉の動きが鈍くなってきた。

「あかん。眠い・・・」

ふらふらとおぼつかない足取りの泉。今にも座りこみそうな勢いだったので、思わず肩を貸す奈緒。

「ちょ・・・大丈夫?」

子供のように、こくりと頷く泉。そんな二人を見て、にこにこ笑いながら、気づけば香月と明日香が、手を振りながら、遠ざかっていっているのに気づいた。

「ちょ・・・ちょと!ふたりとも!」
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