ラフ
家に着くと、すぐに洗面所へ向かった。
ごしごしと口を何度も洗った。

何度も、何度も。

涙も止まらない。
唇の感触も消えない。

「うっ・・・・ふぇ・・・ぅっく」

その場にへたり込み、ただただ泣いていた。


どれだけの時間泣いていたか分からない。
気づけば真っ暗だった。

部屋に戻ると、外は真っ暗で、街の明かりがぽつぽつと見えるくらいだった。

かばんから携帯を取り出した。
泉の声が聞きたい。
泉に会いたい。
そう思った反面、どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。

泉に嫌われたら?軽蔑されたら?
しかも相手は泉の先輩だ。
何もいえない。

「・・・っひっ・・・・く・・・ぅぅ・・・・」

ただひたすら、声を押し殺して泣いた。
今日の出来事を、忘れようと。
ただただそう思って泣いた。


泉から連絡がくる。
それまでには、普通になれるように。
普通に接することができるように。

ただそれだけを思った。

忘れろ。忘れろ。忘れろ。

呪文のように繰り返した。



あれは夢だ。アレは夢だ。

・・・・・・・・アレハユメダ・・・・・・・



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