ラフ
叫んだ瞬間に、急にずん、と体が重くなった。とっさのことで、思わず倒れこみそうになるも、何とか必死で踏みとどまる。

「ね、泉君こっからどうやって帰るん?」

聞いてみると、家の場所は歩いて5・6分程度の距離のところにあるという。幸い、奈緒のうちも、泉とは反対方向ではあるが、歩いて帰れない距離ではない。

「泉君眠い?」

聞くと泉はこくんと頷いた。

「お布団で寝たい?」

また、こくんと頷く。

「じゃぁ帰ろっか」

すると、ばっと顔を上げて、奈緒の方を向いた。

「どこに?」
「泉くんち」

きょとんとした顔を向ける。

「なんで?」
「眠いんでしょ?」

こくんと頷く。

「お布団で寝たいんでしょ?」

こくんと頷く。

「じゃ、帰って寝なきゃ。でしょ?」

小さい子に説明するように喋る奈緒。

「奈緒ちゃんはどうすんの?」

意外とまともな質問が返ってきた。

「送ったら帰る。帰れる距離だし」
「それはだめだー!」

すると、泉がいきなりがばっと抱きついてきた。

「なんでやねん!」

突然の出来事にびっくりして、泉の頭を叩く。

「おー!今の突っ込みナイス」

ケタケタと笑いながら喜ぶ泉。

「奈緒ちゃん一人で帰るの危ないって」

確かに、最近は物騒な話も多い。つい先日もちょうど、泉の住んでいる近くで、押し入り強盗事件が起きたという報道があったばかりだ。

「じゃ、泉君こっからタクで帰れる?近いから大丈夫やんね?」

そう言って、奈緒は近くを走っていたタクシーを止めた。


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