ラフ
部屋を間違ったのか、それとも。

嫌な考えが頭の中を駆け巡った。

出合ってまだ、たったの1日ちょっと。
そんな子を本気で彼女だなんていうのは、やっぱり普通に考えておかしかったんだ。

…そんなことない、泉はそんなやつじゃない。

そう、頭の中では思っていても、どうしても嫌なことばかり次々と頭に浮かんでくる。

泉との待ち合わせの時間まで後30分くらいある。


少し、落ち着こう。


そう思って、泉のマンションを離れた。

泉のマンションから、ちょうど映画館へ向かう途中にある、コーヒーショップが開いていたので、そのままそこに入った。
ホットコーヒーを頼んで、ボーっとカップを眺めていた。

「あ、奈緒ちゃんだ!」

聞き覚えのある、嫌な声がした。
声の主は、やはりあの高松だった。
高松は一緒にいた女の子が嫌がっているのにもかかわらず、そのまま帰らて、奈緒の向かいに座った。

「奈緒ちゃん、昨日はゴメンネ??」

軽い感じで謝ってくる高松。
思い出したくもなかったのに、どうしてこのタイミングで会うのかと、少しいらいらした。

「・・・なんで名前知ってるんですか?」

怪訝そうな顔をして、高松をみた。
高松は、思い出したように赤い定期入れを取り出した。

「あ!」

見覚えのある定期入れだった。中にはPITAPAと、会社の名刺が入っていた。

「それ、昨日走ってったときに、落としていってたで。呼び止めたけど、奈緒ちゃん、そのままどっかいってまうし」

悪びれもせず、高松がニコニコと笑いながら言った。
< 42 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop