ラフ
「ほら、乗ってのって。おっちゃんごめん。家まで送ったってくれへん?」

タクシーに泉を乗せて、見送ろうとする奈緒。

「にいちゃんどこまで?」

運転手さんがメーターを弄りながら聞いてくる。

「したら難波の方まで。ほら」

急に奈緒は中からぐいっと手を引っ張られ、バランスを崩して、座っている泉のひざの上に寝そべるような形でこけた。

「なにしてんの!」

あわてて起き上がろうとする奈緒にはかまわず、また、腕を引っ張って奥へと押し込んでくる泉。

「ドア閉めるで」

運転手のおっちゃんは、そんなやり取りは気にせず、ドアを閉めた。慌てる奈緒にはお構いなしに、タクシーは動き出す。

「奈緒ちゃんも飲んでんねやし。取り合えず、家でゆっくりしていきーな」

ニカっと笑う泉の顔に少しドキッとする奈緒。 

「あ、おっちゃん、そこを右に曲がって・・・あ、そこちょっと行ったとこでええよ」

歩いて5分少々の場所だったからか、タクシーもワンメーターですんだ。
そのかわりに、タクシーの運転手にはものすごく嫌な顔をされた。

「・・・歩いてけばよかった。こんなんやったら」

ぶつぶつと文句を言うと、頭をぽんぽんとなでながら、奈緒の手を引っ張って歩く泉。

「うち、ココの7階やねん」

オートロックを解除して中に入る。築がまだ浅いらしく、綺麗な玄関ホールだ。エレベーターにのり、7階までいくと、そのフロアーには入り口が2つしかなかった。

「すげー・・・」

自分の住んでいるマンションと全然違うと、感嘆の声を漏らした。

「ほら、入って入って」

ふと気づけば、泉に促されるまま玄関まで入っていた。もう、ココまできたらどうでもいいかと、奈緒は諦めて家の中へと入った。

「わー・・・すげー・・・」

玄関を入ると、両脇にトイレ・バスがあり、突き当たりのドアを開けると、リビングになっていて、カウンターキッチンも設置されていた。さらにその奥には2部屋分のドアがある。

「なんじゃこりゃ」

今奈緒が住んでいるのが1R。泉は2LDK。あまりの違いにあっけにとられた。

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