ラフ
「・・・泉君てホンマに芸能人やねんなぁ」

はぁ、とため息を漏らしながら部屋を散策する。
男の子の1人暮らしにしては、部屋が綺麗に片付いていた。

「ビールでも飲む?」

リビングに戻ると、泉が缶ビールを2本持って来ていた。

「や、ええよ。てか、何で私、ここにきてんのかわからんし。あんまり遅くなったらさすがに知ってるこの辺でも怖いし。もう帰る」

そういって、笑って玄関の方へ向かおうとすると、泉が腕を引っ張った。

「なんで?ええやん。ちゃんと家まで送ったるって。やから、もーちょっとだけ飲もうや」

外ではあんなに酔っ払った風に見えたのに、今はしっかりとしている。
あれは演技だったのか、と思わずため息がでた。

「外やと、あんまし落ち着いて飲まれへんし。な、奈緒ちゃん」

またニカっと笑う泉。その笑顔に、一瞬、心臓がどきんとはねた。
どうにもこの笑顔は、私にとってはツボらしく、弱いみたいだ。

「んじゃ。ちょっとだけ」


どうせ明日は会社はお休み。多少今日、遅くなっても問題ないか。


そう思って、ビールを1本だけ飲むつもりだった。
・・・そう、1本飲んだら帰るつもりだった。


「あははは、泉君めっちゃ面白い」

会話が弾み、気づけば、何本もテーブルの上にお酒をストックされていて、なくなったらすぐに新しいのを開けて渡され、すでに2人で十数本、空にしたビールが床に置かれていた。

奈緒自身、決して弱いほうではない。

が。

ビールはどうも酔いやすいようで、昔から酔いが回るのが早く、弱かったりする。

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