君と書いて「恋」と読もう。
「どうして?」
もうこの関係は、イヤだから。
「なんでもいいだろ。」
そんなこと、言えるわけがない。
言えたらきっと今日この場所に、僕はいない。
きっとこんなモヤモヤすることもなかった。
「いいじゃない。減るものじゃないし。」
百合のこの表情と言葉には、いつも負ける。
でも、今日は負ける気がしない。
「いいだろ。俺は、帰る。」
だから、僕は屋上の扉へと向かった。
後ろから、百合が呼び止めてくれるんじゃないかなんて、期待をしながら。
でも、大人だ。
百合は、いつも呼び止めてなんかくれない。
こっちを向こうともしない。
それでも、期待をしてしまう僕は、もうすでに負けているのかもしれない。
「待って」
僕が諦めて屋上の扉に、手を掛けた時。
不意に、百合の声が僕の耳を触る。
初めてだ。
百合が僕の行く手を阻む。
「なんだよ」
何故か、勝ったような気になる。
「やめましょう。」
いきなり出た言葉に意味を読み取れない。
「はぁ?」
でも、本当はこの時分かっていたのかも知れない。
< 10 / 14 >

この作品をシェア

pagetop