月と太陽
細い路地。
急いでる僕にとっては、視界が狭くなるから、かなり厄介。
曲がり角が多くて、人を探すには最悪な場所だった。
しかも、桜は結構小さいから、入れ違いになっても、チラッと見える場所もない。
僕は、もう諦めようとしていた。
というか、もう暗くもなってきたし、見つけるのは不可能だと思った。
でも、‘心配’という文字が、僕の中で出口のない迷路をさ迷っている。
おかしいくらい、僕の頭は桜のことでいっぱいだった。
それでも、情けないこの僕の足は、家路へと向いていた。
その時・・・・。

‘ぐにゃ・・・・。’

鈍ったらしい、痛い音。
僕はやってしまったと、上を向き1回タメ息を落としてから、下を向いて謝ろうとしたときだった。
「さ・・・くら・・・・。」
思わず呟いてしまった。
僕が踏んでしまったのは、通行人の足でなく、倒れている桜の手。
桜は、顔を真っ赤にして、汗と涙にまみれ、歩道に倒れこんでいたのだ。
僕の顔からは、血の気が、ほとんどなくなり、ただただ体を震わせて、桜を見ていた。
このときの僕は、桜を。
桜の手を握ってやることくらいしかできなくて、無意識のうちに、何故か学校に連絡していた。
先生の出るまでの、発信音がやけに長く聞こえて、数秒のうち何度電源を切ろうとしたことだろう。
でも、ちゃんと先生の低い声が耳に入ってきて、僕はただ‘桜が倒れた’それだけを、何度も繰り返してたと思う。
今考えてみれば、僕の声はその時かなり震えていたと思う。
もう。何を言ってるのかさえ分からないくらいに。
その後、保健医の先生が駆けつけたが、軽い疲労だと、笑って僕に告げた。
そして先生は「じゃぁ学校に戻るわね。あと、星華院さんのこと。本当に大事なのね。」と理不尽な言葉を残して、
学校に帰ってしまった。
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