だからキスして。
そう言われても…なかなか会ったばかりの

しかも若い女性に、自分の心の中身をさらけだせない…

私は少し躊躇していた。

──こんなバカげた話しを他人に聞かせていいものだろうか?

そう思うと…なかなか最初の一歩が踏み出せないものだ。

しばらくして、彼女は痺れを切らしたように言った。

「話しにくいかもしれないけど…あたし真剣に聞きますから。古島さんの力になりたいんです」

そう言われて、私は彼女の顔を見た。

不思議と恥ずかしさは消え、代わりに彼女から目を反らせなくなった。

私の話しを聞いてもバカにしたりしないだろう…そう思えて、私は上手く話せないながらも

今まで生きてきた私の'心'を初めて他人に見せた。






「私が…妻と出会ったのは二人が26歳の時。彼女は同じ職場の同僚だった。

ふとしたきっかけで仲良くなり…付き合い出して、二年後に結婚したんだ。

プロポーズだってちゃんとしたし、働いて'給料三ヶ月分の結婚指輪'だって渡した。

彼女を本当に愛していたし、彼女も喜んでくれて…思えば、あの瞬間が私達の未来が最も輝いていたと思う…

彼女の私に対する愛情も、あの時が一番深かったと思うんだ」
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