だからキスして。
「少し遅かったけど、やがて子供にも恵まれて…私は本当に幸せだった。

愛する妻と、その間に生まれた愛する家族…それだけで十分だったのに




…妻には恋人がいたんだ」

「浮気してた…って事?」

「浮気ってよりは…不倫だから、相手の男とは長く深く愛し合っていて…身体の関係もあった。

それを知っても私は何も言えなかったよ」

「どうして?咎めればよかったのに」

「怖くて言えなかった…言えば、私は愛するものを全て失うかもしれない。子供達や、家や…妻も」

「それでも、奥様を愛していたの?」

「もちろん。私は結婚する時に決めたし、彼女にも約束したんだ。『必ず幸せにする』って。

私の出来る限りで彼女を愛そうって…

だけど、やっぱり若い頃は苦労させたし、ケンカもした。

彼女に恋人がいると知っても…彼女の幸せの為になんて理由で離婚なんかしたくなかった。

全てが自分の為に、だ。家族を捨てる勇気もない。私は…器の小さい男だったんだよ」

「そんな事ないわ…」

「結局、彼女を繋ぎとめてしまった。彼女がいつ、諦めて男と別れたのかわからないが…今も私の妻で居てくれてる。それもあと少しだ…


私は肺癌なんだよ」
< 12 / 110 >

この作品をシェア

pagetop