だからキスして。
「明日の…多分、朝7時くらいですかね」

急変した夫の処置をした担当医師が言った。その意味が解らずに、私は息子と説明を聞いていた。

「会わせたい家族の方がいらっしゃれば、今のうちに呼んでください」

「それは…もう夫は長くないって事ですか?」

「…はい。明朝までだと思います」

──心臓が痛かった。

喉の奥が狭くなったように、呼吸が重く苦しくなった。

終わる…
終わるんだわ…

細かいことは子供が聞いたり答えたりしていた。
私では意味がわからない。

理解できたのは
『延命措置はしない』と子供達が決断していたこと。

「母さん、大丈夫?」

息子が私を気遣い、色々とやってくれてた。

「大丈夫よ…」

「交代で父さんを見てようって話しになったんだ。朝方になったら一度家に戻って子供達を連れてくるから」

「そうね…そうして。母さんは病院にいるから」

「辛かったら横になってなよ。俺らが見てるからさ」

「ええ…そうするわ」

子供達はそう言ってくれたけど、眠れる心境じゃなかった。

終わることを覚悟していたけど、何故か不安になる。

夫がこの世から居なくなる。

もう会うこともないんだわ…
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