だからキスして。
「彼女の為に諦めるしかないって思った…」

「忘れるって決めたのね?」

あたしの問いかけに、彼は呆れたように笑顔を作って見せた。

「仕方ないのさ。僕は失恋した…けれど、これほど誰かを愛した事がなかったから…誰よりも深く愛した女の事をキミはすぐに忘れられるのか?」

「そうね…他人から見れば簡単に言えるけれど…なかなか忘れられないでしょうね」

「未練がましいって思われても仕方ないけれど…最後に一度だけ、彼女とキスしてみたかった。そうすれば諦められる気がして」

「本気でそう思うの?キスなんかしたら余計忘れられなくなるんじゃない?」

「確かにそういう可能性もある。だけど彼女には二度と会えないんだ。どうする事も出来ないだろ?

僕は彼女が幸せでいてくれる事を願うだけだ。でも…嘘でも虚像でも構わないから、僕には宝物が必要だ」

「それが彼女とのキス?」

「それがあれば生きていける。それがあれば…次の恋も出来る気がするんだ。こんな理由じゃダメかな?」

「ダメじゃないわよ」

あたしは答えた。
彼は分かっている…自分の恋の絶望を。

諦める強さを持つ為に必要としている『何か』

あたしは彼を助ける事にした。
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